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消費税の仕入税額控除とは?
企業や個人事業主が消費税を納める際、仕入や経費などに含まれる消費税を差し引ける制度があります。
いわゆる「仕入税額控除」と呼ばれるものです。
今回は、仕入税額控除の基本的な仕組みと適用要件、注意点を解説します。
仕入税額控除の基本的な考え方
仕入税額控除とは、売上に対して課税される消費税から、事業のために支払った経費等に含まれる消費税を差し引く仕組みです。
税金の基礎知識
まず、税金には「直接税」「間接税」の2種類があります。
| 種類 | 内容 | 具体例 |
| 直接税 | 納税義務者と税の負担者が同じである税金 | 所得税や法人税、相続税など |
| 間接税 | 納税義務者と実際の税の負担者が異なる税金 | 消費税や酒税、たばこ税など |
消費税は「間接税」であり、最終的な負担者は消費者ですが、事業者が納税を担います。
課税売上と課税仕入の関係
事業者は、以下のような計算式で消費税の納税額を算出します。
課税売上にかかる消費税−課税仕入にかかる消費税=納付税額
上記の、課税仕入にかかる消費税を差し引く仕組みが仕入税額控除です。
仕入税額控除の額が大きいほど、納付税額は少なくなります。
仕入税額控除の対象となる経費
以下のような、事業に関連して支出した経費が対象になります。
- 商品や原材料の仕入れ
- 水道光熱費、通信費、リース料などの経費
- 業務用ソフトや備品などの購入
- 外注費、委託費
消費税の仕入税額控除を受けるには、「課税仕入」に該当する取引であるのが前提です。
しかしすべての経費が課税仕入になるわけではなく、対象外や控除制限のあるケースも存在します。
たとえば従業員に対する給与や賞与などは、「ひとへの報酬」であり、消費税の課税対象ではありません。
一方で、人材派遣料や警備・清掃サービスの委託費などは事業者間の取引であり、消費税が課される対象です。
仕入税額控除を受けるための条件
令和5年10月から「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が導入され、仕入税額控除の要件が強化されました。
控除を受けるには、以下の2点が必要です。
- 課税仕入に関する帳簿の保存
- インボイス(適格請求書)の保存
課税仕入に関する帳簿の記載事項は、以下の4つです。
①仕入先の名前
②仕入れた日付
③購入した商品やサービスの内容
④支払った金額(消費税を含む総額)
また、インボイス(適格請求書)の記載事項は、以下の通りです。
①発行者の名前と登録番号
②取引を行った日付
③取引した商品やサービスの内容(軽減税率対象かどうかも記載)
④税率ごとに分けた合計金額(税抜または税込)と適用税率
⑤税率ごとに分けた消費税の金額
⑥請求書を受け取る事業者の名前
上記を備えていない取引については、原則として仕入税額控除の対象外となります。
なお、インボイスを発行できるのは、仕入先が「適格請求書発行事業者」として登録されている場合のみです。
取引先が免税事業者である場合は、支払った消費税があっても控除はできません。
経過措置として、一定期間は控除が段階的に縮小されていくため、取引先が免税事業者かどうかを確認するのが重要です。
仕入税額控除が否認される主なケース
仕入税額控除は、消費税の負担を軽減するために重要な制度です。
ただし、制度のルールを守らずに運用すると、税務署の調査で控除が認められなくなる場合があります。
帳簿や請求書に不備がある
前述のように、仕入税額控除が認められるには一定の要件を満たす必要があります。
帳簿の記載が不十分だったり、請求書の内容に必要な情報が欠けていると、控除が認められない場合があります。
インボイスが保存されていない
令和5年10月からは、インボイスの保存が必須です。
インボイスがない取引は、たとえ消費税を支払っても控除の対象にはなりません。
また、インボイスが一定の形式を満たしているかどうかも重要です。
- 登録番号が記載されているか
- 税率ごとに区分された金額や消費税額が記載されているか
- 記載内容に誤りがないか
上記を確認し、正しく保存して初めて、仕入税額控除が認められます。
事業と関係のない支出を含めている
仕入税額控除の対象となるのは、「事業として行った取引」に限られます。
そのため、以下のような支出を経費として計上すると、税務調査で否認される可能性があります。
- 自宅の家賃や光熱費など、私生活に使っている部分の全額
- 従業員ではない家族への支払
- 私的な飲食費や交際費
- 趣味や個人的な目的で購入した物品
事業に直接関係していないと判断されると、たとえ請求書やレシートがあっても控除対象から外されるので注意してください。
仕入税額控除を確実に受けるためのポイント
仕入税額控除を確実に受けるには、日常的な経理処理が重要です。
- 請求書の記載内容を確認し、不備があれば差し替えを依頼する
- 適格請求書の保存形式(紙・PDF)を統一して管理する
- 経費精算時に目的と内容を明記して帳簿に記載する
上記の対応を経理部門または会計担当者が徹底すれば、トラブルの予防につながります。
まとめ
仕入税額控除は、消費税の納税額を正しく軽減するための仕組みです。
事業にかかった消費税を控除するためには、帳簿とインボイスの保存が必須となります。
控除を受けられないミスや手続き漏れがあると、本来よりも多くの税負担が生じる可能性があるため注意が必要です。
日頃から帳簿管理や請求書のチェック、制度の理解を怠らず、必要に応じて税理士などの専門家に相談するのが重要です。